研究概要 |
従来,多くの研究者は目標組成のTiNi合金ターゲットを準備して成膜していたので,得られた膜の動作特性などに影響を及ぼす組成の精密制御や,厚さ方向の組成変調はできなかった.本実験では,Ti及びNiターゲットへの投入電力などを独立に制御できる多元素同時スパッタリング装置を用いているので,それらの課題を一気に解決できることが実験的に確認できた.すなわち,得られた膜の組成を目標値に対して±0.1at%程度に制御することができ,かつ,厚さ方向の組成を連続的に変えた傾斜組成膜を得る技術も獲得できた.また,本装置にパルス高電圧印加装置を付加して成膜と同時にイオン注入が可能となるように改造すると同時に,これを用いた成膜プロセスを完成させ,具体的な成膜実験も行った.その結果,負のパルス高電圧を基板に印加することによって基板温度が400℃であっても結晶化した薄膜を得ることができた.種々の報告では,スパッタリング法で得た非晶質のTiNi薄膜の結晶化温度は500℃程度といわれているので,本研究によって負のパルス高電圧の基板への印加がTiNi膜の結晶化温度の低減に著しい効果がある,すなわち,従来は実現できなかった高分子材料基板(例えば耐熱性に優れたポリイミド)にもTiNi膜を付与することが可能であることが明確になった.X線回折法で得た極図形を用いて配向性を評価したところ,バイアス印加の有無によって配向性を制御できる可能性も示すことができた.また,負のパルス高電圧の印加によって,膜中には格子欠陥が導入されているはずであるが,X線回折プロファイルにはそれを定量的に示す痕跡(例えば負のパルス高電圧の印加条件と半価幅あるいは積分幅の関連)は認められなかった.
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