研究概要 |
マグネシウムは軽量、高強度、資源豊富性、無毒性など多くの長所を持つ一方で腐食しやすいという欠点をもつ。このため、マグネシウム合金の実用範囲を拡大するためには、高い耐食性を与える表面処理法を開拓することが重要である。本年度は、金属マグネシウムを腐食性環境から遮断するための新しい表面処理法として,定電位アノード分極法を併用したスズ系耐食性化成皮膜形成法を開発した。この方法は,アノード分極により浸漬初期のマグネシウム溶解を加速させて化成浴中のマグネシウムイオン濃度を増加させ,化成皮膜の沈殿効率を上げて被覆率の高い化成皮膜の形成を目指すものである。本年度は本手法の機構解明と処理条件の最適化を行った。それによると化成処理はいくつかの段階に分かれて進行し,マグネシウム表面溶解と不働態皮膜形成の初期段階に続き,不働態皮膜溶解と表面近傍のマグネシウムイオン濃度上昇による化成皮膜の沈殿が起こる。AZ91ダイキャスト合金を用いた場合,これらの現象が起こる速度はα相とβ相で異なり,その結果単純な自然浸漬による化成処理では相により化成皮膜の被覆状態に違いが生じ,耐食性を低下させる。しかし定電位アノード分極によって強制的にマグネシウムを溶解させることにより,相の違いによらず同程度の化成皮膜の形成を行うことができた。浴組成,浴温度,アノード分極電位を変えて最適な化成皮膜を得る条件を見いだし,これにより得られた化成皮膜は,自然浸漬で形成した化成皮膜に比べて数桁小さな腐食電流を達成することができた。
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