研究概要 |
高強度,軽量,豊富な資源量などすぐれた特徴を持つ一方で,耐食性に極めて劣るマグネシウム合金に実用的な耐食性を付与するため,本研究では定電位アノード酸化を併用したスズ酸ナトリウム化成皮膜形成法を開発した。この方法は,マグネシウム合金を化成浴に浸漬する際,アノード酸化によりマグネシウムを積極的に溶解させて,緻密かつ均一な化成皮膜を沈殿させるのに十分な量のマグネシウムイオンの表面濃度を得る手法で,従来の単純浸漬法と比べて極めて耐食性の高い化成皮膜を得ることができる。本年度は,このアノード酸化併用化成処理法の最適条件を求めるため,AZ91D合金を用い,浴組成,浴温度,アノード電位,処理時間などの条件を変えて生成した化成皮膜について表面観察および耐食試験を行った。その結果,浴温度80℃,アノード電位-1.1V(Ag/AgCl),NaOH濃度0.125Mの時に最も良い耐食性化成皮膜が得られた。化成皮膜の電子顕微鏡観察より,最適条件では化成皮膜を構成する微粒子のサイズが小さく,相互に密に詰まっており,また微粒子間の空隙がさらに小さな微粒子で埋められていた。こうした構造が化成皮膜における低い欠陥密度を達成し,耐食性を向上させたものと考えられる。また,アノード酸化により強制的に表面を溶解させることにより下地合金表面の組成の違い(α相,β相)による表面の不均一化および化成皮膜の不均一な形成も見られなくなっており,こうした効果も高い耐食性に寄与していると考えられる。これらの知見より,本手法は不均一な形状を持つマグネシウム合金への化成処理においても有用であると考えられる。
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