研究概要 |
本研究では、残壁の自然回帰型修復緑化を進める観点から、裸地化した斜面部に木本類を導入することを目的とした植生基盤の造成に関する基礎的検討を行った。まず、事例研究として、実際に樹林化している岩盤斜面の地山について地形勾配や植生基盤の厚さと物性値に関する基礎調査を行った。つぎに、得られた調査資料をもとに残壁に植生基盤を造成することの可能性を検討した。また、この過程で新たな安定解析式を誘導した。得られた結果は、次のとおりである。 (1)植生基盤の厚さを明瞭に計測できる地山における事例調査の結果、傾斜40〜50°の岩盤斜面に対して、植生基盤の厚さが10〜25cm程度あれば樹林の形成が十分に可能であることが明らかとなった。 (2)平面すべり安定解析式について、従来,鉛直厚さで表現されてきた土塊の厚さを実際の厚さで表現する方法に改めた。このことによって,従来の式では安定する土塊の厚さが増加に転じてしまう傾斜50°を超すような急斜面に対しても、土塊の厚さを傾斜で補正することなく直ちに表現できるようになった。 (3)内部摩擦角を期待できない土(φ=0)では,何らかの粘着力を見込める限り植生基盤として造成できることを理論的に解明した。本研究で事例調査した森林表土を植生基盤材としてそのまま用いる場合、粘着力として8.0kN/m^2程度を期待でき、傾斜60°の残壁に対して厚さ20cm程度の植生基盤を造成できることがわかった。 次に、残壁の自然回帰型修復緑化における自然回帰度の評価システムを確立する目的で、樹木を小段だけに導入した場合と小段と斜面部の双方に導入した場合の2通りについて、景観評価実験による自然回帰度を検討した。得られた結果は、次のとおりである。 (1)樹木を小段だけに導入した場合,自然回帰度は高さ比が0.6以上のとき,高さ比に正比例して増加し、ほぼ自然回帰の状態と判定できる高さ比は1.2となる。 (2)樹木を小段と斜面部の双方に導入した場合、自然回帰度は高さ比に正比例して増加し、ほぼ自然回帰の状態と判定できる高さ比は0.6である。 (3)残壁の自然回帰度は,樹木を小段だけに導入した場合と小段と斜面部の双方に導入した場合の違いに拘わらず,樹木が生長するにつれて高くなる傾向がみられる。前者の場合は,樹木がベンチの高さを超えないと自然回帰の状態とはいえないのに対して、後者の場合は6割程度まで生長すると自然回帰状態とみなせることが明らかとなった。
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