研究概要 |
多くの衛星搭載の光学センサでは、基準光源あるいは太陽光測定機構を搭載しており、軌道上での校正基準として用いられているが、校正基準の出力値が時間と共に低下を示す事象が報告され、問題となっている。そこで、基準光源測定値の低下傾向の原因として有力視されている分子ガスの吸着に対し、光学系に及ぼす影響の定量評価を行った。衛星光学系への吸着を再現するため、衛星光学系で使用されている典型的な硝材5種を選択し、吸着面サンプルとした。選択した硝材は融解石英(SiO_2),ホウケイ酸クラウンガラス(BK7),フッ化カルシウム(CaF_2),亜鉛化セレン(ZnSe),およびサファイア(Al_2O_3)である。また以前の計測結果から無機ガス吸着による透過率変動は250mm-20μmまでの範囲で検出限界以下であったため、本年度は有機ガスおよび水蒸気吸着を主として行なった。今年度得られた結果は以下の通り。 1.光学硝材に吸着する水蒸気量は同一真空度・同一温度境下であっても硝材に依存する。今回測定を行なった硝材においては、CaF_2,SiO_2,BK7,ZnSe,Al_2O_3が親水性であり、CaF_2,SiO_2,BK7,ZnSe,Al_2O_3が疎水性であった。 2.水蒸気吸着の場合、気相・液相状態にあると考えられる環境下では分子吸収バンドがある特定の波長域での透過率変動が顕著に現れるが、固相への相変化により、可視から赤外に渡る広波長範囲で透過率の変動が見られた。 3.有機ガス吸着においては、衛星使用部材からのアウトガス成分の典型と考えられるジクロロメタン・2-プロパノール・酢酸エチルを吸着ガスとして用いた。有機ガス吸着による透過率の影響は赤外域では無視できる程度であったが、紫外域で顕著な透過率低下を示すことがわかった。 これらの結果は、今後の衛星の軌道上較正精度向上のための基礎データとして用いられる。
|