平成18年度における当初の研究計画では、中性粒子輸送シミュレーションコードにCxHy系炭化水素分子の各種原子・分子過程を取り込むために大量のデータベースの構築・最適化作業を実施することを計画していた。ただし、科学研究費の交付申請の後に、国外の他の研究機関が同種の原子分子過程を中性粒子輸送コードに取り込む作業を順次進めていることが判明したため、その成果を待つほうが研究遂行上明らかに得策であると判断した。そのため今年度は、来年度に計画していた大型ヘリカル装置(LHD)のプラズマ周辺部の炭化水素分子の挙動を観測するための態勢整備を一部前倒しして、実験データの収集に主眼をおいた研究を推進した。 LHDの外側ポートに合成石英製のビューポートを取り付け、可視光測定用のCCDカメラを設置して、下側のダイバーター部を観測できるようにした。さらに、炭化水素分子から放出される特定波長の光のみを透過する干渉フィルターをレンズの前面に装着することにより、様々な実験条件下におけるダイバーター部の炭化水素分子の挙動を観測することができるようにした。また、実験室から離れた制御室からの遠隔操作により、カメラの観測方向を変更できるようにした。 LHDではプラズマ密度を増加させていった場合には放射崩壊現象によって、プラズマの温度が極端に低下してしまうことが既に判明している。この新しいシステムによって、放射崩壊時におけるプラズマ周辺部・ダイバーター部の炭化水素分子の挙動を詳細に観察することができるようになった。プラズマ密度の上昇にともない、ダイバーターレッグ部の下流に存在していた炭化水素分子の放射領域が、レッグの上流部に移動し、放射崩壊の直前にはレッグの根本部付近に移動していることが判明した。これらの知見は、LHDにおいて更なる高温・高密度のプラズマを安定に生成・維持するための貴重な知見を与えるものである。
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