本研究では放射線や超音波を利用した金属イオンの固化あるいは溶解について、長寿命核分裂生成核種のひとつであるテクネチウムについて調べた。前年度に整備したマルチ測光システムを用いて、主に超音波照射に伴うテクネチウム化学種の酸化還元について調べた。その結果、放射線効果と似たような影響を及ぼすとされる超音波照射では過テクネチウム酸イオンの還元は全く起こらないことがわかり、放射線効果とは全く異なる結果を与えた。さらに、酸化テクネチウム(IV)水和物のコロイド分散溶液を超音波処理すると、瞬く間にテクネチウムが酸化され、過テクネチウム酸イオンが定量的に生成する現象を発見した。OHラジカルの捕捉剤であるt-ブタノールを添加すると酸化反応が著しく抑制されることを見いだし、この酸化反応は水の分解で生成するOHラジカルによるものであることがわかった。この酸化速度は共存する気体の性質に左右され、希ガスであるヘリウムとアルゴンについて比較したところ、アルゴンガス中に於ける速度はヘリウム中の速度よりも約3倍大きくなった。フリッケ線量計を超音波照射に適用し、ガスによる影響を調べたところ、OHラジカルの生成速度の差があることがわかった。ヘリウムの熱伝導度はアルゴンよりもはるかに大きいので、超音波によって引き起こされるキャビテーションバブル内の熱が周囲に散逸しやすく、ヘリウム中では水の分解がアルゴン中よりも抑えられたためと理解することができる。
|