研究概要 |
陽子ビームをポリエチレンに照射し,その中に生成したラジカルを起点としてモノマーのグラフト重合を行っている.イオンビームグラフト重合を行った試料に再び陽子ビームを照射し,電子スピン共鳴装置を用いて試料中のラジカルの観測を行った.一回照射時とほぼ同じスペグトルが得られたので,従来と同様にイオンビームグラフト重合を行うことが可能であることがわかった. 50μmのポリエチレンを4枚重ねて3.4MeVの陽子ビームを照射したとき,飛程近傍(4枚目)におけるグラフト率がエネルギー付与から考えられる値よりも小さくなった.本研究では,数μmの層からなる多層膜ポリマーを多重グラフト重合(イオンビームグラフト重合法を多数回適用)を用いて製作する.この層の領域はすべて飛程近傍になるので,グラフト率の低下機構解明は多層膜ポリマー作成において重要である.そこで,陽子ビームエネルギーやフルエンスを変えて実験を行い,この現象の機構について検討した.飛程近傍においては入射粒子とターゲット粒子の核的衝突が起こる.これがグラフト鎖の生長を阻害し,グラフト率低下に起因するとして検討を行った結果,実験結果を説明できることがわかった. 銅が吸着している場所が導入した吸着官能基の存在する場所と考えて,多重グラフト重合で作成した試料に銅を吸着して加速器分析を行った.飛程付近の深さにピークを持った銅密度分布が観測できた.しかし,二回グラフト重合したうちのいずれか一回のグラフト鎖に大部分の銅が吸着しているようであった.吸着官能基はアミドキシム基とカルボキシル基を用いて行った.前者は疎水性,後者は親水性基であるので吸着効率等が異なり,かなりの差異が出たと考え,同種のモノマー(アクリル酸とメタクリル酸)を用いて多重グラフト重合実験を行った.その結果,二種の官能基にそれぞれ吸着しているような分布(二層)が測定できた.
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