研究概要 |
アクチノイド領域核の核分裂断面積の予測精度を向上するため、軟回転体模型(SRM)により^<56>Feから^<238>Uに至る63種類の偶々核の集団準位構造の包括的解析を行った。解析に関しては、変形度に感度の高い反応データ及び電磁遷移確率も考慮してパラメータをカイ2乗サーチにより決定した。SRMで記述される複雑な変形を考慮しない場合、低エネルギー中性子断面積のエネルギー依存性を再現できないことが明らかになり、我々の模型の有効性が実証された。今回導出した実行変軽度はRaman等によってB(E2)、B(E3)データより導出された値と非常に近い質量依存性を示し、さらにGe領域核のγ変形パラメータも実験値と良く一致することが分かった。基底状態の四重極変形度の関数として広い質量数領域における系統性を見いだし、準位構造が未知の核種に対しても適用が可能であることが分かった。一方、殻ギャップの存在するN=40近傍でパラメータが不連続的な変化があり、球形から変形領域への遷移がSRMにより記述されることも分かった。これらの成果を日本原子力学会秋の大会(高知工科大、平成20年9月)にて発表し、論文投稿を行った。また、これらの成果はJENDL-4の評価にも多く用いられた。 断面積を記述するSRM-CCについても、分散関係を用いてパラメータ数を減らすことにより予測能力を高める手法開発とLane模型に基づいて(p,n)反応までを含めて解析する手法を開発し、核データ研究会(東海村、平成20年11月)にて発表した。 重原子核のポテンシャルエネルギー表面を系統的に計算可能とし、存在が予測されるほぼ全ての核種に対して核分裂障壁を導出した。さらにその値を用いてβ崩壊における核分裂比、中性子放出比の計算を行いデータベース化し、その検証のためr過程元素合成計算をして観測値との比較を行った。これについてはOMEG09国際会議の報告集として出版された。 統計模型についてはアイソスピンを考慮した一般化されたHauser-Feshbach計算手法に基づくプログラムを作成し,その有効性をテストするため^4He,^<12>Cの崩壊に適用してニュートリノ断面積の計算を行いデータベース化を行った。その結果を用いてr過程におけるニュートリノ振動の効果について論文発表した。 この研究を通して、中性子誘起核分裂断面積に関する理論予測を行うためには核分裂障壁の他にサドル上での準位密度の重要性が確認された。それらについて核構造の専門家と議論、および放射性核種の核分裂断面積の実験に関して新しい手法である代理反応の可能性について実験の専門家と議論し、原子力データとして必要な核分裂についての理解の定量性を深めていくための今後の研究の方針を得ることができた。
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