エネルギー回収型リニアック(Energy-Recovery Linac;ERL)の技術に基づく次世代放射光源は、フェムト秒の短パルスX線、干渉性をもったコヒーレントX線の発生を可能にする装置であり、その実現が放射光ユーザーから強く求められている。ERLにおいてX線干渉性の大小を決めるパラメータは電子ビームのエミッタンス(電子ビームの空間的広がり)である。したがって、ERL開発の重要な課題は、(1)エミッタンスが極めて小さい電子ビームを生成し、(2)エミッタンスが劣化しないように電子ビームを加速し周回軌道に導き、(3)アンジュレータから放射光を得ることである。本研究では、入射電子ビームと周回電子ビームが同一軌道に合流する「合流部(merger)」における電子ビームのエミッタンス劣化(増大)に注目し、その解析手法の開発と実験による解析手法の妥当性検証を目的としている。本年度は、電子追跡コードの粒子生成方法アルゴリズムがエミッタンス計算に与える影響を調べ、特に、エミッタンスが小さい場合には、粒子生成を一般的な乱数ではなくlow discrepancy sequenceと呼ばれるアルゴリズムを用いなければならないことがわかった。また、エミッタンス測定実験のためのスリットスキャンチェンバーの設計と製作を行った。幅が数十マイクロメータの金属スリットを用いて電子ビームを空間的に切り取る装置であり、2台一組で用いることで電子の位置/運動量の分布(エミッタンス)を測定できる装置である。
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