研究概要 |
バクテリオファージは特定の宿主細菌に感染すると、宿主染色体中に溶原化したり、宿主内で複製・増殖し最終的に宿主を溶菌させたりする。溶原化したプロファージ遺伝子はその後変異し、宿主に新たな機能をもたらすこともある。ファージDNA上の遺伝子にコードされた蛋白質の多くは、新奇で機能未知なものがほとんどであり、その中には、新たな機能・構造を有した有用蛋白質が発見されることも充分考えられる。新奇遺伝子の探索・解析を目指して本研究を行った。 枯草菌Marbarg株はSP10ファージの感染に対して耐性であるが、宿主染色体上の2つの部位に変異(nonA・nonB)を生じると、ファージの感染に感受性になる。この現象の解明を端緒として研究を開始した。 nonA・nonBのSP10ファージに対する作用機構を解析するために、SP10ファージゲノムの塩基配列決定を行った。ライブラリ作製のため、複数の制限酵素や超音波により染色体を切断した。それらをプラスミドベクターにクローニングし、塩基配列を決定した。決定した配列を整列化し連結させ、いくつかのコンティグを作成した。現在までに72のコンティグが得られ、全長約108kbのうち90%の合計97,547bpを決定した。Staphylococcus phage K ORFとの相同性がしばしば見られた。現在決定完了を目指している。 ファージの増殖を阻害している枯草菌のプロファージSPβ内の未同定のnonA変異は、SPβを段階的に欠失した枯草菌株を多数作製し、ファージに対する感受性を調べた結果、複数の機構があることが判明した。少なくとも2種類存在し、一方はyon0遺伝子と未同定遺伝子、もう一方はdNDPの還元酵素のホモログであることを突き止めている。yon0遺伝子産物は機能未知遺伝子だが、遺伝子発現を制御している可能性がある。今後の解析が興味深い。
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