研究概要 |
これまでに決定されたDlx3-7遺伝子間領域の高度保存エレメント(I37-1,2,4,5,7)について、その進化的配列変化を探索するため、14種のほ乳類(ヒト、ヒヒ、キツネザル、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ウシ、ブタ、コウモリ、ヘッジホッグ、アルマジロ、オポッサム、さらにカモノハシ)を多種間比較した。配列比較にはERA (Evolutionary Rigidity Assay)という我々独自の方法を用い、ほぼ完全保存モチーフで覆われる領域を、ほ乳類の進化段階に応じたグループごとに推定し、その進化速度を調べた。この結果、I37-1,4,7は全ての種で高度保存していることが判明し、他方、鰓弓特異的エンハンサーI37-2およびI37-5の保存度は単孔類と真獣類の分岐点で急速に下がっていることが示された。このことは単孔類のカモノハシについて、鰓弓由来の器官の進化的制約が急激に変化したことを意味する。またI37-2は、ほ乳類でも特に真獣類で進化した鰓弓由来の頭蓋形態発生に必要なエレメントである可能性が示された。さらに、Dlx3-7クラスターの遺伝子間領域で最も保存度が高いI37-1からI37-3を含むDlx3遺伝子の下流約2.2kbの領域が、四肢でのDlx3遺伝子の発現を制御する領域であり、このエレメント中には指間領域およびAER両方の発現制御領域が含まれていることを明らかにした。このI37-1エレメントは硬骨魚類、さらに驚くべきことに頭索類のナメクジウオにも保存モチーフが見つかった。ナメクジウオのエレメントをマウスに遺伝子導入して活性を調べたところ、Dlx遺伝子の祖先型の発現が確認された。このことは四足動物の四肢特異的エンハンサーが、四肢を獲得する以前の祖先種からどのように進化したのかを知る上で重要な知見である。
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