Dlx3-7遺伝子間領域の高度保存エレメントについて、13種のほ乳類(真獣類および有袋類のオポッサム)をERA(Evolutionary Rigidity Assay)を用い、保存度の極大値を取るサイトを決定しその性質を調べたところ、鰓弓でのDlx3遺伝子の発現を制御するI37-2についてはDlx結合配列が最も重要な機能的なコアであることが示された。さらに進化的に遡り単孔類のカモノハシを比較すると、ほぼこのDlx結合配列のみが保存しており、その他の配列は高い進化速度で変化していたことが明らかになった。さらに、Dlx3-7クラスターの遺伝子間領域で最も保存度が高いI37-1からI37-3を含むDlx3遺伝子の下流約2.2kbの領域が、マウスで四肢でのDlx3遺伝子の発現を制御する領域であることを明らかにした。このI37-1エレメントについては硬骨魚類、さらに四肢を持たない頭索類のナメクジウオにも保存モチーフが見つかった。ナメクジウオのエレメントをマウスに遺伝子導入して活性を調べたところ、Dlx遺伝子の祖先型の発現が確認された。このことは四足動物の四肢特異的エンハンサーが、四肢を獲得する以前の祖先種からどのように進化したのかを知る上で重要な知見である。さらにERA法によって推定されたI37-1のコアモチーフがBMP4シグナルの標的配列であることが明らかとなり、この配列に変異を入れたところ、四肢での発現が失われることが確認され、この配列の機能的な重要性が証明された。Dlx結合配列及びBMP4シグナル標的配列はショウジョウバエやナメクジウオでもDlxゲノム配列から発見され、Dlx遺伝子発現を誘導し自己制御により発現を安定化させるメカニズムが進化的に保存され、使い回されてきたことが考えられる。
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