マッコウクジラに対する吸盤装着型データロガー装着を5月に熊野灘、9月に小笠原父島周辺海域にて行なった。熊野灘では2頭に、小笠原では9頭にデータロガーの装着を成功させた。小笠原での3頭を除く個体には、水深、速度、温度、2軸加速度が計測可能なデータロガーを装着し、残3頭にはこれらに加えて地磁気センサーを持つものを装着した。後者のデータは解析中であるがマッコウクジラの採餌行動時の三次元的な行動パターンが解明されるものと期待される。その他のデータとこれまでに得られているデータから、餌の追尾を表していると考えられている速度バーストの回数と持続時間が熊野灘と小笠原で異なっていることが明らかとなった。両海域で採餌行動が異なっていることがより詳細に明らかになりつつある。またバーストの終了時には、高周波の加速度成分が検出されており、これが餌のハンドリングあるいは飲み込み時の体の動きを表しているのではないかと考えられる。今後詳細にこの行動を解析する必要がある。データロガー装着と平行して、母系集団であるクランを明らかにするためにクランごとに異なるコミュニケーション用音声「コーダ」の収集を目的とする音声録音を行なった。今回は、熊野灘で78分、小笠原で468分の録音データを得た。その他これまでにさまざまな機関により録音されたデータの提供を受け、総計22時間のデータを解析した。その結果、熊野灘のデータではコーダが得られなかったが、小笠原海域のデータには、96個のコーダが発見された。これらのコーダはほとんどがクリック数の少ないパターンであった。小笠原海域にはいわゆるショートクランが主として分布することが示唆された。今後もコーダの収集に努め、日本近海に分布するクランについて明らかにしていく必要がある。
|