マッコウクジラに対する吸盤装着型データロガーの装着を、8月に北海道根室海峡、9月に小笠原父島周辺海域で行った。今年度から新たに調査地とした根室海峡は、これまで調査を行って来た海域がいずれも繁殖育児群が中心に生息する海域であるのに対し、オスが生息する海域であり、雌雄での潜水行動の差異や、オス間の関係について新たな知見が得られるものと期待される。小笠原では天候不順により、装着作業を行うことができなかった。一方根室海峡では、1頭に装着を成功させ、18.8時間の潜水データを得た。装着時間の間、この個体は17回の深い潜水を行っており、夕方から夜間にかけて7時間潜水を行わず水面近くに滞在していた。このように非常に長い水面滞在時間は、これまでのデータでは見られておらず、オスあるいはこの海域に特殊なことかも知れない。また昨年度に装着した地磁気センサー付のロガーによるデータを解析し、三次元的な遊泳経路を明らかにした。その結果、マッコウクジラは、潜降、底部、浮上のいずれもにおいて、遊泳方向や体の向きを頻繁に変えて広く餌生物を探査していると思われる部分と、比較的まっすぐに泳ぐ部分があることが明らかとなった。また餌生物の追尾と捕獲を示すバースト時には、最初一定の速度で泳いだ後、急加速し、急減速とともに体を大きく曲げた後、徐々に速度が遅くなるという一連の行動が起こることが明らかとなった。これらはそれぞれ、餌生物への接近、追尾、捕獲、処理を示すものと考えられる。 音声録音をデータロガー調査を行った2海域に加え、和歌山県熊野灘沖でも行い、熊野灘60時間、根室海峡37時間、小笠原54時間、計151時間のデータを得た。現在、コミュニケーション用の音声であるコーダの抽出作業を続けている。
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