研究概要 |
ハイマツの年枝伸長量から気候変動による影響を検出するため,富山県立山山地において,標高の異なる4つの調査地を設定した。しかしながら,天候不順等の理由により調査地の選定が遅れたため,気象観測機器の設置に関しては環境省の認可が必要なことから,本年度は実施することができなかった(気象観測については次年度より開始する予定である)。標高の異なる4つの個体群のうち,3つの個体群については,各個体群につき10本の主幹について,年輪コアを採取すると同時に年枝伸長量を現地にて計測した。肥大成長と伸長成長との対応関係については,現在のところ解折中のため結論的なことは言えないが,両者の間の対応関係は弱いようである。当年枝の長さは標高と弱い対応関係を示したが,秋に形成された芽のサイズは標高の増加に伴って減少した。本年度サイズ計測を実施した主幹を対象に,次年度において引き続き伸長成長パタンを追跡調査することで,気象要因との対応関係や時間遅れの効果等を明らかにする予定である。 また,風衝地群落にハイマツが侵入した場合を想定し,ハイマツの発達度合いが異なる風衝地群落の植生データ(2001年に取得)を新たに解析し,ハイマツが高山植物の種多様性に及ぼす影響について解析し論文としてまとめた(Wada(2007).Far Eastern Studies, Vol.6(inpress))。ハイマツの発達度合いが増すと,亜高山帯以下にも分布している種や動物によって種子が散布される種の占める割合が増加すること等を明らかにした。 さらに,日本の高山帯の5地点において,地温の連続観測を一年間実施してデータを回収した。これらのデータをもとに,地球温暖化の兆候を早期に検出するための高山生態系における長期環境モニタリングの有効性について今後検討する予定である。 なお,本年度予定していた南アルプスの個体群を対象とした調査は,時間の都合で実施することが出来なかった。本年度は,北アルプスの最北端の個体群(朝日岳)について調査を実施し,前年度に調査を実施した個体群と併せて7つの個体群でのデータが揃った。次年度についても,引き続き対象個体群を増やす予定である。
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