2006年9月から11月にかけて、金沢市近郊の俵町の落葉樹林において、鳥散布植物種の果実に対するアリ類の行動を観察した。福井県織田山で行った果実食性鳥種の排泄物解析調査の結果に基づき、北陸地域で主要に捕食、運搬されていると考えられる植物種27種を実験種として用いた。これら植物各種の果実50-100個を林床に配置し、地表を排徊するアリによる効果を観察した。その結果、23種でげっ歯類や昆虫類の捕食などの影響があったが、12種でその果実はアリによって運搬された。特にアカメガシワ、カラスザンショウ、アケビ、コマユミ、ムラサキシキブ、クマノミズキの6種の果実が高頻度で運搬され、これら果実は鳥による散布の過程で地表に落ちた後もアリによって散布されている可能性が示唆された。またこれら運搬は主にヤマトアシナガアリとアズマオオズアリによって行われていた。しかし、果実繊維部のみを除去するクリーニング行動はこの調査地では観察されず、そうした行動は果実が運搬できない大型サイズの種が分布しているような地域で主に起きていると推測された。またアリ巣内での果実の扱いを調べるため、ヤマトアシナガアリとアズマオオズアリのコロニーを採集し、飼育条件下で果実を与え、その捕食行動を観察した。この実験には運搬頻度が極端に高かったアカメガシワ、カラスザンショウ、アケビ(アケビは種子)の3種を用いた。その結果、アケビ種子は誘引器官であるエライオソーム部を食べられた後に巣外へ廃棄されていたが、他2種は果実部(脂質部)を食べられた後に捨てられていた。この2種の脂質部は本来、鳥散布における散布鳥種への報酬器官であるが、アリに対しても同様の機能があることが示唆され、特殊な二次散布形態があると考えられる。さらにアリによって処理された種子の発芽頻度や表面物質の分析を継続して行っている。
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