2008年9月から11月にかけて、鳥散布植物種の果実に対するアリ類の行動の観察を行った。本年度の新たな調査地点として植生条件が他の調査地と異なる兵庫県六甲山近辺を選出した。この調査地の落葉広葉樹林において、鳥によって主に捕食、運搬されていると考えられる植物種約30種を実験種として用い、これら各種の果実20-50個を林床に配置し、アリによる効果を観察した。その結果、他の調査地での観察結果とは異なり、アリによる運搬や捕食の頻度は全体的に低く、これまで運搬が観察されていたカラスザンショウなどへのアリの効果も低かった。この事はアリによる大型果実への効果が植生条件などによって変化することを示唆している。 さらに今年度もマレーシア、サラワク州のランビル国立公園へ渡航し、その熱帯林にてアリと果実の観察を行った。観察は8月の乾期に行い、結実が確認された5、6種の鳥散布植物について、林床での果実配置実験と樹上でその果実を食べる鳥個体の観察を行った。その結果、ゴシキドリなどの鳥種による捕食の過程で果実やその種子は高頻度で林床に落とされたが、それら果実は数種のアリ、特に放浪性種であるヨコヅナアリ属によって高頻度で運搬されていた。このような放浪性種は森林内を集団で採餌し、果実が成熟した樹木の下に集まって集中的に種子の運搬を行うと考えられ、熱帯林では運搬者として大きな役割を担っていると思われる。さらにアシナガアリ属の種では正常な種子を選んで運ぶ種子選択行動も観察され、このような行動は健全な種子の効率的な散布に貢献しているものと考えられる。
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