・近縁なツガザクラ属植物を材料とし、送粉者(マルハナバチ)を共有することによる植物の交配システム進化への影響を検討した。 ・ツガザクラとアオノツガザクラが共存している立山では、両種の雑種と見られる個体が観察され、花形態(花冠サイズ、柱頭-葯間距離、花柄上の毛の長さ)が両種のほぼ中間の値を示した。種間交配実験から、ツガザクラとアオノツガザクラの間で雑種種子の生産が可能であることが示された。しかし、ほとんど全てのマルハナバチはアオノツガザクラを選好訪花しており、ツガザクラへの訪花頻度はきわめて低かった。ツガザクラへの訪花は、アオノツガザクラへ選好訪花中に偶発的に起こるものであり、ツガザクラ個体間での連続訪花はほとんど観察されなかった。これは両種の花蜜分泌量の違いが原因と考えられた。マルハナバチのこのような行動特性は、ツガザクラにアオノツガザクラの花粉が到達する頻度を高めており、雑種形成を促進する原因と考えられた。しかし、両種の雑種と見られる個体は全く種子生産ができず、雑種は一代のみであることが示唆された。F1雑種個体の不稔性が、ツガザクラとアオノツガザクラの間に雑種種子の形成を阻止するような交配システム(異種不和合性)が進化しない要因と考えられた。 ・立山のツガザクラは高い頻度で自殖していた。アオノツガザクラとのポリネーション競争において不利な状況がもたらした交配システムの進化であるのかどうかを検証するために、ツガザクラだけが生育する赤石山で、交配システムとポリネーターの訪花頻度を調べた。赤石山でもツガザクラへのマルハナバチの訪花頻度はきわめて低く、また、立山と同様に高頻度に自殖していた。このことから、立山のツガザクラはアオノツガザクラとのポリネーション競争によって自殖が促進されたものではないと推測した。
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