研究概要 |
水田土壌の嫌気層で生成したメタンは、大気へと放出される過程で、酸化層あるいは好気的な根圏で大部分酸化されると考えられている。メタンを直接的に酸化・利用できるのは一部の細菌群集(メタン酸化細菌)に限られているが、メタノールなどの中間代謝産物やメタン酸化細菌バイオマスを利用することで他の微生物群が間接的にメタン由来の炭素循環に関与する可能性も考えられる。本年度は、メタンが水田土壌の原生生物群集に及ぼす影響についてモデル実験により検証した。 シャーレ内に調整した水飽和状態の薄層土壌(厚さ約3mm)を異なるメタン濃度(0,1,5,10%[v/v])の雰囲気下で好気的に培養を行った。微小電極を用いて土壌溶液中の溶存酸素濃度を測定したところ、メタン濃度に応じて鉛直方向の酸素濃度の減少が助長されることが示され、添加したメタンが酸化されたと考えられた。土壌からRNAおよびDNAを抽出し、18S rRNAおよびその遺伝子を対象とした(RT-)PCR-DGGEによって真核生物群集の解析を行った。DNA、RNAいずれの解析においてもメタンの有無や濃度の違いによる真核生物群集の変化が認められた。RNAを対象としたDGGEでは、DNAに比べてそのパターンが単純であり、RNAの発現量の高い(活性の高い)真核生物群集を反映していると推察された。DGGEバンドから得られた塩基配列情報から、メタン添加によってAmoebaや細菌捕食性の繊毛虫Colpodeaに近縁の原生生物が出現することが示された。Colpodeaについては顕微鏡観察によりその存在が確認された。以上の結果から、(1)メタン酸化が真核生物群集に影響を与えていること、(2)メタンの酸化は水田土壌の酸化還元境界層において微生物食物網の起点となること、が示唆された。
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