水田土壌の嫌気層で生成したメタンは、大気へと放出される過程で、好気的な根圏や土壌表層で酸化される。メタンを直接酸化・利用するのは一部の細菌群集(メタン酸化細菌)に限られているが、メタン酸化細菌バイオマスを利用することで他の微生物群がメタン由来の炭素循環に関与する可能性が考えられる。異なる濃度のメタン雰囲気下で好気的に培養した水田土壌からRNA・DNAを抽出し、18S rRNAおよびその遺伝子を対象としたPCR-DGGEによって真核生物群集の解析を行った。RNA、DNAいずれの解析においてもメタンの有無や濃度の違いによる真核生物群集の変化が認められ、メタン雰囲気下での培養によってアメーバや細菌捕食性の繊毛虫Colpodeaが出現した。また、メタンおよび酸素の濃度勾配を再現した湛水土壌のミクロコズムを作成し、13CH4を用いたStable Isotope Probing法により、メタン由来の炭素を取り込んだ真正細菌群集、真核生物群集を解析した。13Cを取り込んだ「重い」RNA画分に含まれる16S rRNAは、メタン酸化細菌に近縁を示す配列が優占しており、それに次いでMyxococcalesに近縁を示す配列が優占した。真核生物群集では、繊毛虫、鞭毛虫、アメーバに近縁な配列が「重い」RNA画分で検出された。メタン由来の炭素がメタン酸化細菌を経て捕食微生物に取り込まれたと考えられ、メタンを起点とする微生物食物網の存在が示された。次いで、メタン酸化細菌を捕食する原生動物を最確値法で計数した。アメーバおよび鞭毛虫の活発な成育が認められ、メタン酸化細菌を捕食する原生動物の存在が確認された。また、メタン酸化細菌の種類によって被捕食性に差があることが示された。単離したアメーバ・鞭毛虫の異なるメタン酸化細菌に対する捕食性試験の結果、原生動物の株間で差が認められた。
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