今年度は、植物の防御戦略の総合的実態を知るためにデータ収集・整理に多くの時間を費やしたが、以下のようなトピックについて数理モデルによる検討も実施できた。 植物の植食昆虫に対する間接防御戦略において、植食昆虫の天敵である肉食昆虫を呼び寄せるSOS化学物質の進化について理論的考察を行った。まだ食害されていない個体が、近隣の食害個体からの信号を受けて、被害を最小化するために前もって天敵を呼び寄せておく戦略が有利となる条件を求めた。また、近接する個体が血縁個体である場合、血縁選択を介して信号発信が有利となる条件も求めた。 植物は植食動物からの被害を最小にするために、成長と繁殖への投資のスケジュールを最適化すると考えられる。成長が成長期完了に比例するという線型モデルでは、成長器官が食われるときには、繁殖への切り替えが早くなり、繁殖機関が食われるときには切り替えは遅くなった。成長飽和の非線形モデルでは、食害は切り替えを遅くした。これらの結果はモンゴルでのデータの傾向に一致した。 多くの植物が、菌類や植食性のダニを攻撃する肉食性のダニを住まわせる家を葉の上に作ることが知られていたが、最近、植食性のダニ用の家が発見された。これは、用心棒のエサを確保してより強い植食性ダニを攻撃してもらうためであるとされた。巻き添え競争の数理モデルで検討したところ、植物にとって家を作ることが有利になる条件が、エサ種が被害種にくらべて繁殖効率および1個体当たりの栄養価が高いことであることが分かった。
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