本年度はまず、昨年度からの継続として、奄美大島と屋那覇島における電波発信器を装着したヒメハブの追跡と、ヒメハブおよび餌動物の定期的な夜間センサスを行なった。各々の島を月に一回訪問し、屋那覇島は8月まで、奄美大島は2月までラジオテレメトリー法による個体追跡を行い、ヒメハブの位置、体温、微環境利用などを継続的に調査した。その結果、屋那覇島のヒメハブの活動性は夏に高く、冬にはほとんど活動しないこと、活動時の体温はおおよそ25〜30度であること、食性はトカゲ類に依存していることが明らかになった。これに対し、奄美大島では、10〜15度の体温で冬によく活動し、餌はカエル類がほとんどであることを確認した。一方、1月と2月には、沖縄島と奄美大島のヒメハブ各々12個体を対象にして、温度勾配装置による嗜好体温の選択実験を行なった。その結果、ヒメハブの選好体温は、両島とも25℃および15℃付近にピークをもつ二山の分布を示すこと、選好体温は日中よりも夜間の方が低いこと、および、雄は雌よりもやや低めの体温を維持する傾向があることが明らかになった。さらに、ミトコンドリアDNAのチトクロームbコード領域の1114対の塩基配列にもとづき、沖縄島、屋那覇島、奄美大島を含む6島間の系統関係を推定し、沖縄島と屋那覇島の個体群は系統的にかなり近縁で、両者は奄美大島の個体群からは明確に離れていることを明らかにした。これらの結果から、ヒメハブは、これまで報告されている他のヘビ類に比べ著しく低い選好体温を示すこと、および、野外での季節活動パターンは、餌資源の入手可能性に大きく依存し、系統的類縁を反映するものではないことが示唆された。
|