2006年度は紀北の和歌川河口干潟と紀ノ川干潟で、2007年度は紀南の田辺湾内の4箇所の干潟で調査を行った。データ解析や標本作製などを行ったところ、和歌川河口干潟では部分的に予測通りの傾向が得られた。しかし、サンプル数や同定可能な標本の種類の不足分もかなり見つかった。そこで、2008年度は、論文が書けるデータを揃えるために、和歌川河口干潟、田辺湾内の干潟、播磨灘の干潟、といった優先順位で、調査を行った。 和歌川河口干潟では、鳥の分布調査を行い、鳥の飛来頻度に応じて干潟を10箇所に区分し、シギチドリ類にとってのエサ資源量(カニ類)とカニの種レベルでの寄生虫感染状況、鳥の摂食行動の観察を行った。2006年度の調査で足りなかったデータ収集に重点をおいた。全般に鳥に最もよく食われ吸虫の寄生率も高かったケフサイソガニでは、捕食の頻度の高い場所と低い場所間で寄生率・寄生数共に違いがなかったのに対し、そこそこ食われていたヤマトオサガニでは、捕食の頻度の高い場所で寄生率・寄生数共に高かった。捕食頻度の低い場所のケフサイソガニにも多くの吸虫が寄生したことから、吸虫に宿主選好性がある、また吸虫の蔓延に必要な密度の閾値が存在する可能性がある。また、主に見られた吸虫は3種で、それらはコメツキガニのみに多数寄生する種特異性の最も高い種、複数種に寄生するもののオサガニのみに多数寄生する種特異性の高い種、ケフサイソガニにやや多く寄生するものの他の複数種にもかなり寄生する種特異性の比較的低い種、とそれぞれ特徴付けられた。 主な結果を昨年8月にアメリカ動物行動学会で発表し、多数の質問や賞賛、激励を得た。
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