アリ類は陸上生態系においてきわめて大きな現存量をしめている。そのためアリ類の生態系における役割、特に他生物との相互関係に関する研究は、陸上生態系の機能の理解や保全を考えるうえできわめて重要である。ところが、これまでにアリ側からみた低次栄養段階の生物との相互作用は良く研究されてきたが、高次栄養段階にある生物群との関係はほとんど未知である。これほどの現存量があるならば、昆虫食動物にとって重要な餌になりうると予測されるが、餌としてのアリ類の役割に関する研究はきわめて乏しい。アリ類は社会性昆虫であり、集団生活のため必然的に発達した防衛行動や形態を進化させてきたと考えられている。このような防衛機構がアリの餌としての利用のしにくさの原因とも考えられているが、実証的な研究は皆無である。そこで本研究では、カエル類をはじめとする昆虫食の脊索動物や節足動物の餌内容を精査することによって各種アリ類に対する捕食の程度を明らかにするとともに、アリ類の餌としての価値を栄養分析や実際の給餌実験などによって明らかにする。さらに、アリ類の防衛形態や行動・分泌物等に注目して防衛機構の効果を実証する。これらの研究によって、アリ類が捕食性生物に及ぼすボトムアップ効果が明らかにされ、その役割をより一層理解することが可能となり、陸上生態系の機能の理解や保全を考えるうえで重要な知見がもたらされると期待される。
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