研究概要 |
ベニツチカメムシの雌親は,ボロボロノキの熟果を子に給餌するとき,特徴的な振動音を発し子を呼ぶ.申請者は本研究において,親子間の信号音コミュニケーションの持つ機能的役割を明らかにすることを目的とした.今年度は,以下のような結果を得た. (1)成虫が,外的な刺激に対して,小楯板と翅の基部を摩擦させて威嚇音を発することは既に知られていたが,今回雌親が,給餌ときに威嚇音とは全く異なる音を発することが確認された.これを「給餌音」と名付けた. (2)給餌音の発生部位は,腹部背側の第1節と2節の間にある膜構造(ティンバル器官)であることがわかった. (3)給餌音を集録音し,パソコンにて音声解析を行った。ソナグラム解析によると,給餌音は振動数数十ヘルツの低い音で,数百ヘルツの威嚇音とは全く異なる音であった.また,給餌音は可聴音であるが,明らかに基質振動を伴い,幼虫への信号は基質振動を介して伝えられている可能性が高いことが分かった. (4)雌親が実を運び入れた直後の巣内の様子や親子の行動を,幼虫1-2令期と3-4令期にわけて観察した.給餌音は雌の帰巣直後から始まり,幼虫たちが雌親の抱える実に群がった後,雌親が実を置いて2-3cm離れたときに終了した.この間の給餌音の時間を「給餌音時間」と名付けた.しかしその中で,実際には給餌音は断続的に発せられ,様々な長さの部分音によって構成された.また,幼虫1-2令期の給餌音時間は3-4令期のものより有意に短かかった.これは,幼虫が成長するほど移動能力が高まり,素早く実に集まることができるからであると考えられた. (5)給餌音を発する親がいるときとそうでないときで,実への幼虫の集合速度に差があるかどうかを調べる予備的な実験を行った,明らかに幼虫は,親が給餌音を発し続けている場合の方が,親がいないときよりも,早く実に集まることが分かった.
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