研究概要 |
ベニツチカメムシの雌親は,餌の熟果を子に給餌するとき,特徴的な振動音を発する.本年度は,昨年度に続きこの振動音の機能についての仮説を検証する実験を行った.また子から親への信号伝達の探索的調査を行った. (1)震動音が幼虫の実への集合速度を高めるという仮説の検証実験 巣の中央に熟果をおき,同時に給餌音を接触型振動スピーカで流し,幼虫の実への集合性を観察した.明らかに,実と振動音が同時に与えられた場合,幼虫の集合速度は高まった.昨年は,データ変動が大きく統計的に有意ではなかったが,今年は実験の精度を改善し,ベイズ法によって有意な傾向を検出できた.ただ,実だけの場合と比べて,1〜2頭,前半で多く集まる程度であり,その効果は大きくなかった.よって実への幼虫の集合速度を高めることが主要な機能ではないかもしれない.第2の仮説として,親が実を抱えて巣に入った時,侵入捕食者でないことを幼虫に知らせる役割が考えられる.野外では,親の留守中によくオサムシなどの捕食者が巣に侵入する.このとき幼虫は,巣内の枯れ枝葉や植物根の隙間等に逃げ込んで隠れる.このような防衛行動は彼らの生存率を高めるが,親の帰巣時には餌への集合を遅らせコストとなるので,帰巣時,親であることを幼虫に知らせることは適応的であろう.この仮説について今後検証する必要がある. (2)幼虫から親への信号伝達の調査 昨年度と同様に,幼虫が振動音を発するかどうかを調べたが,検出できなかった.幼虫から親への信号は振動音を介したものではないかもしれない.予定していた匂いについての実験は設備不足で行えなかった.昨年と今年の観察では,幼虫たちが親に登って群がる行動や,さらに口吻を親に突き刺す行動も見られ,接触信号を利用している可能性は高い.今後も,フェロモンや接触行動に注目して幼虫からの信号伝達手段を特定する作業が必要である.
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