研究概要 |
土壌・水界中での光合成細菌の物質循環機能を解明していく目的で,温泉中(60-70C)に発達している光合成細菌を含む微生物マットの,群集構造と硫黄循環について調べた.長野県中房温泉は,硫化水素や硫酸イオンをふくむ弱アルカリ泉であり,温度に応じて,さまざまな微生物の集合構造がよく発達している,今回は,65C付近のマットに硫酸還元菌が生息しているかどうか,光合成細菌の関与した硫黄循環があるかどうかを検討した.硫酸還元の過程においてアデノシンホスホ硫酸(APS)の還元を触媒するAPS還元酵素遺伝子(apsA)の検出と系統解析を行った結果,高温適応型硫酸還元菌の存在が確認された.実験室における採取微生物マットの硫化水素利用・生産活性測定の結果から,好気的硫黄酸化細菌と,光合成細菌が硫化水素の酸化に寄与していることが明らかとなった.上記の微生物マット中では,光,酸素濃度,溶存物質濃度が変化しており,それに応じて各種細菌群が分布していると想定される.その細菌分布の三次元構造を明らかにするために,CARD-FISH(catalyzed reporter gene deposition-in situ hybridization)という、検出感度の極めて高い蛍光in situ hybridization法を用いた手法を適用するための方法を検討した.次に,光合成細菌の環境浄化機能について,海洋性の光合成細菌の原油分解機能について調べた.海洋では,光合成細菌も原油分解に関与している可能性があるが,これまでほとんど調べられていない.そこで,ある種の淡水性の光合成細菌では分解活性が知られている安息香酸分解活性のある光合成細菌を,多摩川河口域の底泥中から集積・分離することを試みた.これまでに,光合成細菌を含む細菌の混合系として,安息香酸を分解する集積培養系が得られた.
|