植物は動物と異なり、脳や神経のような情報処理に特化した器官を持たない。にもかかわらず、植物は自らが置かれた環境(例えば土壌養分条件)を評価し、その環境に適した振る舞いを示す。とくにクローナル植物と呼ばれる植物群では、ある地上茎は、その地上茎を栄養繁殖で作り出した親の地上茎が置かれた土壌養分条件を参照しながら自らの形態を決定している可能性が高いことが明らかになりつつある。クローナル植物とは、すくなくとも1枚の葉と根からなるラメットから、遺伝的に同一なラメットが栄養繁殖により生産され、このラメットが単独で生活史を全うしうる能力を有する植物の総称である。本研究では、一本の地上茎と葉と根からなるラメットと呼ばれるユニットが地下茎などを介して複数結合しているクローナル植物を対象に、そのラメットのネットワークに記憶が成立する可能性について理論的および栽培実験により検証した。 クローナル植物である、カキドオシおよびホソムギを用いた栽培実験を行った。その結果から、シミュレーションモデルに用いるパラメータの決定を試みた。ホソムギについては、その過程で得られた知見を論文として発表した。また、両種から得られたパラメータに基づくシミュレーションを試みたが、データのバラツキが予想以上に大きく、その結果、シミュレーションの結果がうまく収束せず、結果の解釈が非常に困難となった。そこで、これまでの知見に基づく理論的なモデルを提案し、本研究の成果とした。
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