研究概要 |
侵入生物の分布拡大に関するモデルの枠組みとして、反応拡散方程式ならびに積分差分方程式を用いたモデルを構築し、分布拡大速度を解析的あるいはシミュレーションを用いて導いた。またそれらを比較することにより、両モデルの特性を明らかにした。 すなわち、拡散モデルでは、昨年度に引き続き、人為により生物の生息環境がモザイク状に分断化されている状況として、下の、1.規則的な分断環境と、2.不規則な分断環境を取り上げ、それぞれ時空間パターンの解析を行った。 1.生息に好適なパッチと不適なパッチが周期的に現れ周期的分断環境:(1)帯状分断環境,(2)島状分断環境,(3)コリドール環境 2.準周期的な分断環境:(1)準帯状分断環境,(2)準島状分断環境,(3)準コリドール環境 その結果、上記1の3つの規則的な分断構造と対応する不規則分断環境(分断の平均面積を同じにする準周期的ランダム環境)のもとで拡がる速度は、後者の方が優位に速い(顕著な場合は5割近く加速される)ことが示された。すなわち、ランダムな変動は伝播速度を上昇させることが明らかになった。 一方、近年注目を浴びているモデルに差分積分モデルがある。反応拡散モデルと積分差分モデルの枠組みの本質的な違いは、個体の移動距離分布が、前者はガウス分布に限られるのに対して、後者はより一般的な移動距離分布の場合にも適用出来る点にある。我々は、すでに拡散モデルの枠組みの中で、上記1の(1)帯状分断環境下での伝播速度を解析的に求めている(Kinezaki, et. al.2003)が、積分差分モデルにおいても移動距離分布が指数分布の場合、同様に数学的な速度公式を導くことに成功した。そこで、分断の無い一様空間で両モデルの速度が一致するようにパラメターを設定した上で、分断化を加えるたところ、積分差分モデルの速度が反応拡散モデルより常に速くなることが明らかになった。すなわち、分断化が速度を減速する効果は、個体の移動距離分布が指数分布よりガウス分布の方が大きいことが示された。
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