研究概要 |
侵入生物の不均質環境における分布拡大に関する数理的研究はこれまで反応拡散方程式ならびに積分差分方程式を用いて行われてきた.しかし,これらのモデルでは、個体の移動がランダム拡散によってのみ行われるとしており,多くの生物が示す,環境の善し悪しを視覚,嗅覚,触覚などの情報を介して感知し,より好ましい環境へと誘引される効果が考慮されていない.そこで,好適環境への移流を取り入れた移流反応拡散方程式を用いて,移流が分布拡大にどのような影響をもたらすかを数学的解析ならびにシミュレーションを用いて調べた. その結果: 1.伝播速度(分布拡大速度)の移流速度uに対する依存性は,uが正のある点で最大値をとるような一山型のカーブを描く.すなわち,移流が無いとき環境条件が非常に悪く生物が生存できないような状況でも,移流が適度にあれば生物は死滅せずに分布域を広げることができようになる.また,当初,伝播速度はuの増加に伴って単調に増加すると思われたが,実際には,uが十分大きくなると伝播速度は減少することが明らかになった. 2.空間の変動周期と伝播速度の関係については,移流速度uが小さいとき,環境変動の周期(環境変動のスケール)が大きいほど伝播速度は大きいが,逆に移流速度が大きくなると環境変動のスケールが小さいほど伝播速度が速くなる.移流の効果を無視した従来の反応拡散方程式では,環境変動のスケールが大きいほど伝播速度が速いことが示されているため,フィールド研究者の間でもそのように認識されつつあるが,好適環境に誘引される生物では必ずしも当てはまらないことが明らかになった.
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