本研究では、植物細胞におけるテトラピロールの分配および輸送機構に着目して、その生理機能を解明することを目的として解析を行った。今年度の研究実績として、まず非常に高感度なヘム測定系の開発に成功した。これまでヘム含量の測定はアルカリ-ピリジンヘムクロム法などにより行われてきたが、この方法は検出感度が低いなど問題も多かった。植物の細胞内でのヘムの動態を解析するためには、本方法に代わる安全かつ高感度なヘム定量系が必要である。そこで、西洋ワサビ・ペルオキシダーゼ(HRP)のアポ蛋白質がヘムと結合することにより再構成されたペルオキシダーゼ活性を、ルミノールを用いた化学発光を検出することで、高感度なヘムの測定系を開発した。 再構成されたペルオキシダーゼ活性の化学発光値と、添加したヘムの濃度の間には直線的な関係が得られ、その検出限界濃度はおよそ10pMであった。ヘム以外のポルフィリン類は全くペルオキシダーゼ活性を上昇させなかった。またルミノールを酸化するFe^<2+>の影響は全く無視できるものであった。 次に本方法を用いて、酸化ストレスに誘導されるヘム合成系の遺伝子機能解析を行った。グルタミン酸tRNA還元酵素(HEMA)とフェロキラターゼ(FC)のアイソフォーム、HEMA2とFC1は、通常の生育条件では、根や胚軸などの非光合成組織で主に発現している。しかし、傷害やオゾン曝露などの酸化ストレスにより、HEMA2、FC1が光合成組織において誘導されることを見出した。HEMA2、FC1の遺伝子破壊株について解析したところ、野生株に対して、根におけるヘム含量の低下が認められた。またオゾン処理を行ったところ、野生株ではヘム含量の増加が認められたが、破壊株ではいずれもヘム含量が減少していることが明らかとなった。以上の結果から、HEMA2とFC1は、通常は非光合成組織におけるヘムの供給に機能しているが、酸化ストレス時には防御応答に関わるヘム蛋白質へのヘム供給に機能していることが示唆された。
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