ヘムやクロロフィルなどのテトラピロールは生物の基本的な機能を担う重要な分子である。これらの分子は葉緑体では光合成を、ミトコンドリアでは酸素呼吸を担っており、細胞の分化と機能発現・環境適応に重要な役割を果たしている。従来、テトラピロール分子の役割は、光エネルギーの捕捉や酸化還元反応、酸素の運搬など比較的限定されて考えられてきた。しかし、近年の研究により、テトラピロール代謝は、従来知られているよりさらに多様で重要な機能を担っていることが明らかになりつつある。テトラピロール中間体はオルガネラ由来の細胞内メッセンジャーとして、細胞周期を調節し、核とオルガネラのコミュニケーションを担い、細胞死の誘導に関わっている。また最終産物は転写・翻訳制御、タンパク質の輸送調節、マイクロRNAのプロセシング、イオンチャネルの制御、ストレス耐性の獲得など、多くの生理機能を担っていることが示されてきた。このようなテトラピロールの生理機能を解明する上で、細胞名におけるテトラピロールの分配・輸送機構を明らかにする事は大変重要である。 そこで本研究では、植物細胞におけるテトラピロール分配・輸送の分子機構に関する研究を行った。本研究では、極微量のヘムを定量するための超高感度ヘム測定系を開発した。また、植物細胞内でテトラピロールの輸送に関わると考えられるタンパク質の単離を行い、その生化学的な性質を決定した。また核とオルガネラのコミュニケーションに関わるテトラピロール中間体の合成を行う酵素である、Mg-キラターゼの調節機構について、葉緑体内におけるレドックス状態に呼応した活性制御機構の存在を明らかにした。以上の研究成果は、テトラピロールの生理機能を解明する上で、非常に重要な基盤的な知見を与えるものと考えられる。
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