葉緑体分裂因子ARC3の変異体であるシロイヌナズナarc3と野生型とを用いたDNAarray解析から、変異体と野生型での遺伝子発現の違いはほとんどなく、唯一At5g42825が野生型では発現していないのに対し変異体では高発現していた。At5g42825はsnRNAでありRNAiとして機能している事が考えられる。 ARC3 Promoter-GUSコンストラクトを導入したシロイヌナズナの解析から、葉緑体分裂因子であるARC3は細胞分裂・発達のさかんな部位である子葉全体で高い発現が観察され、本葉においてはその発現が低い事が示された。また、葯における花粉と鞘における胚においても高い発現が観察された。暗所発現させた子葉においてARC3の発現は植物ホルモンであるサイトカイニンとオーキシンで誘導される事も示された。これらの事より、ARC3の発現には植物の部位特異的な発現制御を受けており、その誘導にはサイトカイニンとオーキシンが関与していることが示唆された。 また、ARC3タンパク質は葉緑体包膜構成成分のうちリン脂質であるフォスファチジルエタノールアミン(PE)に特異的に結合する事を示した。PEは原核・真核生物における細胞分裂時に重要な機能を持つ事が示されおり、PE特異的な抗体を用いた抗体組織染色解析から、葉緑体分裂時にPEはARC3タンパク質と同様なリング構造を分裂面に形成する事が示された。葉緑体の祖先と考えられているシアノバクテリアはPEを持たない事から、ARC3-PEコンプレックスによる葉緑体分裂機構は原始原核光合成細菌の原始真核生物への共生後に生じたと考えられる。
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