研究概要 |
過剰な可視光照射にともなう光化学系II反応中心結合タンパク質D1の凝集について、以下の研究を行った。 (1)シアノバクテリアSynechocystis PCC6803の野生株細胞に1,000μE m^<-2> s^<-1>程度の強光を照射すると、D1タンパク質の凝集が生じた。このD1タンパク質の凝集物はD1とD2およびD1とcytb559 α-subunitとの凝集物と思われるが、未だ最終的な特定には至っていない。このD1タンパク質凝集物を分解するプロテアーゼを同定する目的で、FtsH(slr0228)、DegP、DegQ、DegSをそれぞれ欠損する突然変異株(ΔFtsH、ΔDegP、ΔDegQ、ΔDegS)に対して同様の強光照射を行い、D1タンパク質凝集の程度を比較した。その結果、ΔFtsHを強光照射したときに著しいD1凝集物の増加が見られた。このことは、FtsHプロテアーゼ(slr0228)が光損傷をうけたD1タンパク質の凝集物を分解する活性を持つことを示唆している。 (2)シアノバクテリアSynechocystis PCC6803のチラコイドおよびホウレンソウのチラコイドでは、強光だけでなく熱(40℃、30分)でもD1タンパク質が凝集することを見いだした。この熱によるD1タンパク質の凝集は嫌気条件では起きないことから、活性酸素がタンパク質凝集に関与する可能性が明らかとなった。チェコの研究グループとのEPR測定の共同研究から、暗条件で熱処理したホウレンソウチラコイド膜からスーパーオキシドが発生していることが確かめられた。 (3)ホウレンソウチラコイド膜をdigitoninで処理し、グラナとストロマチラコイドに分けて強光照射や熱処理を行ったところ、グラナで非常に著しいD1タンパク質の凝集が生じることが分かった。このD1タンパク質の凝集は、D1タンパク質が脱リン酸化されていないときに著しくなることも明らかとなった。今後、光化学系IIの機能不全と細胞死を考える際に、極めて重要な情報となる可能性がある。
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