本研究では、ホウレンソウチラコイド膜とシアノバクテリアSynechocystic PCC6803を用いて、光ストレスおよび熱ストレスによる光化学系II反応中心結合タンパク質D1の分解と凝集について、詳細な検討を行った。その結果、以下のような結果を得た。 1.光ストレスに伴う光化学系IIの光阻害においてはD1タンパク質が分解されるが、Synechocystis PCC6803とシロイヌナズナArabidopsis thalianaでは、このタンパク質分解に金属プロテアーゼFtsHが関与することが示されている。我々は、ホウレンソウのチラコイド膜に熱ストレス(40℃、30分)を与えるとD1タンパク質がFtsHにより分解され、23kDaと9kDaの分解産物が生じることをFtsHの可溶化と再構成実験により示した。 2.熱ストレスをホウレンソウのチラコイド膜に与えると、光化学系II周辺で一重項酸素とヒドロキシルラジカルが生じ、それがD1タンパク質に酸化的損傷を与えることと発見した。また、熱処理で光化学系IIのPsbO、P、Qの3種類の膜表在性タンパク質が光化学系IIから遊離するが、この際にもこれらのタンパク質の酸化的損傷がタンパク質遊離の直接の原因となっていることを示した。また、光化学系IIの周辺では熱ストレスで脂質の過酸化が顕著に起こることを見いだした。 3.Synechocystis PCC6803のFtsH欠損株では、光ストレス下で野生株に比べてD1タンパク質の凝集が著しいことを見いだした。この結果は、FtsHプロテアーゼがD1タンパク質の凝集物を分解しているか、D1タンパク質の凝集を妨げる分子シャペロンとしての役割を果たしている可能性を示している。
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