硫黄は動植物の必須元素であり、アミノ酸、ビタミン、補酵素、酸化還元反応や生体防御反応を担うさまざまな生体内化合物(代謝産物)などに含まれている。外界からの硫黄の供給が乏しい硫黄欠乏条件においては、植物は硫黄代謝のみならず、代謝全般を変化させることで、与えられた条件に適応して生育することができる。本研究課題では、硫黄に着目したメタボロームおよびトランスクリプトーム解析により、植物の代謝制御機構を解明し、また未知遺伝子の機能同定を行うことを目指した。昨年度の研究で、シロイヌナズナを硫黄栄養欠乏条件などのさまざまな実験条件で栽培し、その葉と根の代謝産物をinfusion法によるフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析(FT/MS)分析で網羅的に解析した。その結果、硫黄欠乏条件で蓄積量の変化する含硫黄代謝産物候補およびそれ以外の代謝産物候補(いずれも推定組成式に基づく化合物推定)が明らかになった。本年度は、同時に取得したマイクロアレイデータに基づく遺伝子発現パターンの変化と照らし合わせることで、硫黄欠乏条件で特に重要と思われる代謝経路に注目し、当該代謝産物候補のターゲット分析およびRT-PCRによる遺伝子発現解析を行った。これにより、FT/MS分析による代謝物の推定が正しかったことが一部証明され、さらに、注目した代謝経路の変化に関してより詳細な情報が得られたことで、硫黄欠乏応答に関する新知見が得られた(未発表)。
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