嚢胚形成運動開始時の細胞の運動能の獲得とコフィリンのリン酸化制御の関連を解析するために、嚢胚形成運動開始時のstage10の胚を各胚葉に分離して、それぞれの胚葉におけるコフィリンのリン酸化状態を調べた。その結果、どの胚葉でもコフィリンのリン酸化状態はその直前のステージのものに比べ顕著に増大しており、細胞の運動性の獲得とコフィリンのリン酸化レベルの間には正の相関があることが確かめられた。 次に、外胚葉の覆い被せ運動(epiboly)におけるコフィリンのリン酸化制御機構を解明するため、リン酸化されたコフィリンを脱リン酸化して活性化するコフィリン特異的フォスファターゼであるslingshot (XSSH)のドミナントネガティブ体を胚細胞内で発現させた。その結果、嚢胚形成運動の最も初期の段階に見られる外胚葉細胞の植物極側方向への移動(pre-gastrula epiboly)が特異的に阻害されることが分かった。この時、細胞同士の滑り込み運動であるインターカレーションも阻害されており、コフィリンの活性化がこれらの過程の進行に必要であることが明らかとなった。 さらに、中胚葉の収束的伸長運動にコフィリンのリン酸化制御が関与するのかどうかを明らかにするために、背側辺縁部外殖体を用いた。コフィリンのアクチン結合部位変異体(ΔA)を細胞内で発現させると、コフィリンリン酸化制御のドミナントネガティブ体として機能することをわれわれは見出しているが、これを発現させた外殖体の伸長の有無をコフィリンリン酸化制御が関与しているか否かの評価法とした。その結果、中胚葉の伸長の阻害の程度はそれほど高くはなく、中胚葉の収束的伸長の局面においてはコフィリンのリン酸化制御は中心的な役割を果たしていないことが示唆された。 以上の解析に加え、XSSHの活性化の分子機構の全体像を明らかにするため、XSSH自身のリン酸化部位の決定を試みており、リン酸化部位は少なくとも4カ所XSSHのTailドメインに存在することを突き止めた。
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