繁殖期に日本各地(5月:横須賀、9月:浅虫)で採集したイトマキヒトデ(Asterina pectinifera)を用いて、以下の実験をおこなった。 ・GSSの産生機構 イトマキヒトデから生殖巣、幽門盲嚢、神経系、胃、管足を単離し、GSSの含有量を定量した。その結果、GSSは放射神経や周口神経など、主に神経系に含まれることを確認した。管足や胃にも僅かのGSSは認められたが、生殖巣や幽門盲嚢には検出されなかった。さらに、GSS活性は、未成熟な生殖巣を持つ個体や放卵後の個体の体腔液には検出されなかったが、人為的に放卵を誘起させた個体の体腔液中に見出された。これらの結果から、ヒトデでは放卵・放精時において、神経系から生殖巣刺激ホルモンGSSが分泌され、体腔液を介して、生殖巣に作用し、放卵・放精を引き起こすことが明らかになった。 ・GSSの作用機構 卵黄形成期と繁殖期の各個体からGSSの標的細胞である卵濾胞細胞を調整し、GSSに対する影響を調べた。その結果、GSSは繁殖期の濾胞細胞に対して、卵成熟誘起ホルモン、1-メチルアデニン(1-MeAde)と細胞内サイクリックAMP (cAMP)の生産を誘起したが、卵黄形成期の濾胞細胞では、1-MeAdeおよびcAMPの生産を誘起しなかった。また、ヨード化ラベルのGSSを用いて受容体との相互作用を解析したところ、卵黄形成期の濾胞細胞の受容体は繁殖期の場合と比較して、GSSに対する親和性が低かった。このことから、GSS受容体は卵の発達状態に応じて、化学的性質が変わり、繁殖時には親和性が高まることが明らかになった。
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