形態学的に識別されるヘテロクロマチン(異質染色質)とユークロマチン(真正染色質)に関して、動物細胞ではヘテロクロマチンタンパク質1などの関与が示されている一方で、植物細胞においてはその分子基盤はほとんど明らかになっていない。 そこで、本研究では、テッポウユリ花粉内に含まれる二種類の核(雄原核と栄養核)クロマチンをモデルとして、両者の形態的差異の主要因を明らかにすることを目的とした。 その結果、雄原核豊富ヒストン変種として見出されていたリンカーヒストンH1の変種(gH1)がクロマチン分化のみられる小胞子分裂直後に顕著な局在を示すことが示された(論文準備中)。すなわち、gH1は不等分裂直後の雄原核に見出され、その後の花粉の成熟過程で雄原核に多量に蓄積されるのに対し、栄養核にはほとんど認められない。ヒストンを染色するとされているアンモニア性銀反応においても、雄原核は生成直後にヘテロクロマチン化することが示された。そこで、gH1と通常のヒストンH1遺伝子を単離し、その発現をRT-PCR法によって調査したところ、H1の発現が花粉の成熟過程で停止するのに対し、gH1の発現は小胞子分裂直前から急激に増大することが確かめられた。したがって、gH1がヘテロクロマチン化の最有力候補と考えられた。さらに、gH1をレポーター遺伝子(GFP)と連結し、パーティクルガン法によってタマネギの表皮細胞等へ遺伝子導入したところ、GFPは核内で特別な局在を示す可能性が示され、ヘテロクロマチン化の機能が期待された。
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