研究概要 |
ゾウリムシは重力依存的に増殖活性を変化させる.この特性をゾウリムシの持つ重力依存的な推進出力の調節機能(gravikinesis)の側面から捉え,遊泳運動に伴う消費エネルギーの重力依存的な増減から増殖活性の変化を説明しようとする仮説の検証を目指した.ゾウリムシのエネルギー消費を算定するために,高感度の蛍光式酸素センサーを導入し,遊泳行動に伴う酸素消費量の変動を調べた.オプティカルスライス法を併用し,遊泳行動と酸素消費とを同時記録することで,ゾウリムシはその遊泳に全消費エネルギーの約3/4を消費していることがわかった.この事実は,これまでに流体力学的に見積もられてきたエネルギー消費を遥かに超えるものであり,ゾウリムシのような水棲微小生物の遊泳とそのエネルギー代謝に対する既成の視点の変更を迫るものとなった.さらに,遊泳速度に応じたエネルギー消費量の算定データから,重力依存的な速度変化に応じて,充分な大きさのエネルギー消費の変化が起こることが明らかとなり,重力依存的なエネルギー消費のバランスの変動に基づく増殖変化の仮説を支持する証拠が得られた.また,クリノスタット回転により,重力場内での配向を均一化した場合のゾウリムシの増殖活性の変動を解析したところ,宇宙微小重力下での実験に基づく予想に反して,増殖が抑制される結果となった.これにより,ゾウリムシでは重力依存的な速度調節の他に,遊泳方向の転換にもエネルギーを消費している可能性が明らかとなり,上記の仮説の(マイナーな)変更が必要となった.加えて,過重力環境下での酸素消費測定のために必要とされる装置の要素試作を行った.
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