研究概要 |
ゾウリムシは重力依存的に増殖活性を変化させる.この特性をゾウリムシの持つ重力依存的な推進出力の調節機能(gravikinesis)の側面から捉え,遊泳運動に伴う消費エネルギーの重力依存的な増減から増殖活性の変化を説明しようとする仮説の検証を目指した.初年度に行った,増殖と重力の相互作用および遊泳エネルギーの測定から,ゾウリムシはその遊泳に全消費エネルギーの大部分を消費しており,これが重力依存的に速度調節することで,遊泳エネルギーの大きな変動をもたらし,結果的に重力依存的なエネルギー消費のバランスの変動に基づく増殖変化を引き起こすとする,上記仮説を支持する証拠が得られた.しかし,クリノスタット回転により,重力場内での配向を均一化した場合のゾウリムシの増殖は宇宙微小重力下での実験に基づく予想に反して,抑制されたという実験結果により,ゾウリムシでは重力依存的な速度調節の他に,遊泳方向の転換にもエネルギーを消費している可能性が明らかとなり,上記の仮説の改訂が必要となった.そのために,細胞増殖に対する重力と温度の相互作用を検証した.増殖中の温度と重力環境を変化させて培養を行ったところ,過重力による増殖抑制は分裂頻度の回復をもたらすものの,飽和密度を回復しないことがわかった.さらに,ゾウリムシのエネルギー消費を算定するために,高感度の蛍光式酸素センサーとオプティカルスライス法を併用し,遊泳行動と酸素消費とを同時記録することで遊泳行動に伴う酸素消費量の変動を調べた前年度の手法を,より少ない資料について行うため,装置の小型化と測定精度の向上を図り,1/10程度のダウンサイジングが可能となった.あわせて,過重力環境下での酸素消費測定のために必要とされる装置の要素試作を行った.
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