研究概要 |
雄コオロギの最終腹部体節にある生殖器は,その内部が常時自動的にクリーニングされている。このしくみを明らかにするため,これまで生殖室の床を構成する膜の表面を調べたところ,小さな鱗(10um)を敷き詰めた構造となっており,それが正中線を挟んで左右対称に配列されており,鱗の流れに沿って行くと,生殖室の両隅にあるゴミ箱(側方嚢)に向かっていることが明らかになった。本年度は,この膜の蠕動運動のしくみを解明するため,おもに電気生理学および免疫抗体組織法を用いて研究した。まず,膜を裏打ちしている多数の筋繊維の走行をメチレンブルー染色し,光学顕微鏡で観察したところ,各々の筋繊維は表面の鱗の方向と平行していることがわかった。また,膜の蠕動運動によって微小なしわが寄ると同部の鱗が大きく逆立つことが判明した。これは筋繊維と鱗の並列配置のため,しわが鱗の方向と直角に生じることで説明できる。一方,筋繊維はすべて神経支配を受けており,主軸索からスパイク活動を記録したところ,運動ニューロンは4つあることがわかり,コバルトによる逆行性染色で細胞体をマークしたところ,最終腹部神経節側方部に4つ同定できた。そこで,膜の一部を切り出しリンゲル液中,膜に生体アミンのセロトニンを投与(10^<-2>M)した。すると自発性のぴくつき運動の頻度が増大し,セロトニンの拮抗剤のミアンセリンの投与は逆に頻度を低下させた。一方,オクトパミンでは変化がなかった。最後に,膜と最終腹部神経節をセロトニン免疫蛍光抗体で染色したところ,4つの運動ニューロンのうちの1つだけに陽性反応が現れた。これらより膜の蠕動運動の制御にセロトニンが関与していることが明らかになった。
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