研究概要 |
フタホシコオロギは、捕食者等が作り出す空気の動きを感じとり、逃避行動を解発する。空気流の感覚器は多数の機械感覚毛であり、それらは腹部末端に一対存在する尾葉上に密生している。そのため、片側の尾葉切除後のコオロギは、空気流刺激に対して間違った方向へ逃避を行う。しかしながら、尾葉切除後約14日間、自由に動き回れる状態で飼育すると、逃避方向は正常個体レベルまで補償的に回復する。回復の程度はその期間の歩行量に依存することが明らかとなっている(Kanou and Kondoh,2004)。 本年度(平成18年度)は当初の予定どおり、まずコオロギの歩行誘発装置と歩行量を計測するシステムを完成させた。これにより、回復期間中の任意の時期に歩行を経験させることができるようになった。このシステムを用い、歩行経験のタイミングと逃避方向における行動補償の程度との関係を調査した。これまでの研究から、自由歩行を制限する条件で拘束飼育すると逃避の方向性が回復しないことがわかっているので(Kanou et al.,2002)、歩行誘発条件と拘束飼育条件とを任意に組み合わせながら片側尾葉切除後14日間の飼育を行ったところ、切除後2〜6日の間に経験した歩行が、逃避の方向性の回復に最も有効であることが明らかとなった。また、その後の期間中、回復に対する歩行の影響力は極度に低下することから、切除後6日目頃に補償的回復を支配する神経系の機能変化の臨界期が存在することが明らかとなった。同時に、本年度の結果は「歩行時に自分が作り出す空気流による残された尾葉への自己刺激が補償的回復に必要である」という仮説(Kanou et al.,2002)を強く支持するものである。
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