研究概要 |
これまで申請者は、片側尾葉切除後のコオロギの空気流刺激に対する逃避行動、特に逃避方向の補償的回復には「歩行時に自分が作り出す空気流による残された尾葉への自己刺激が補償的回復必要である」という仮説をたて、それを実証してきた。昨年度はコオロギを静止歩行させ、それに対して人工の自己刺激空気流(偽自己刺激空気流)を与えながら飼育する装置を開発し、自己刺激の必要性を直接的に証明した。 本年度(平成20年度)は同様の装置を用い、歩行開始から偽自己刺激空気流を与えるまでの時間を変化させることにより(刺激遅延)、自己刺激空気流が逃避方向の補償的回復に効果的に作用するために必要とされる時間的同調性について調査した。最終的な結論はまだ得られていないが、どうやら1秒程度の刺激遅延が境界らしく、それよりも長い遅延で刺激を与えた場合は、その刺激が自分の行動(歩行)により生じたものとは認識されない。詳細については継続的に調査中であるが、この結果はコオロギの神経系内で運動情報とその結果生じる感覚情報がどのように関連づけられ、処理されているのかを知るための重要な手がかりとなる。 一方、逃避行動の回復には片側尾葉切除後比較的早い時期(2-6日程度)に自己刺激空気流を経験することが必要であることがわかっているため(Takuwa and Kanou,2007)、その期間の巨大介在神経の機能変化について調査した。その結果、それら機能変化のあるものは切除後6日後までの早い時期に起こっていることが判明した(Kanou and Kuroishi,2008)。これは巨大介在神経の機能変化と行動の変化との関係を直接的に証明するものであり、今後の研究の土台となるものと考えられる。
|