ゴミムシダマシの蛹の腹部屈曲運動に与える各種神経ホルモン(プロクトリン、FMRFアミド、FXPRLアミド、PDF)の効果を探るために、中枢神経系と筋肉系におけるこれらの神経ペプチドの存在を免疫細胞化学的に調べた。これらのペプチドホルモンに対して陽性の反応を示す細胞が各神経節に多数分布していたが、プロクトリンとFMRFアミド陽性の1対の運動ニューロンが食道下神経節から腹部第6神経節まであった。腹部神経節にあるこれらの運動ニューロンは軸索を腹部腹側筋に伸ばして、9対の腹部筋の中で一番太い筋肉に終末していた。腹髄と腹部腹側筋のついた生理標本を作成し、後胸神経節と腹部第一神経節の間の神経索を電気刺激してときに起こる腹部全体の収縮に対する神経ペプチドの効果を電気生理学的に調べた。神経ペプチドを単独に与えた時に効果があったペプチドはプロクトリンだけで、他の3種のペプチドは顕著な効果を示さなかった。プロクトリンを投与すると、最初に起こる収縮の大きさが増すと共に、時間的に少し遅れて第2、第3の収縮が顕著に現われ、洗浄後もその効果が長時間続いた。プロクトリンと他のペプチドを同時に投与した時には、FMRFアミドがプロクトリンの効果を抑制し、第2、第3の収縮がほほ消失した。時間的にFMRFアミドを先に投与し、その後にプロクトリンを投与しても同じ効果が現われた。プロクトリンを先に投与し、その後FMRFアミドを投与した時には、洗浄後も長く続くプロクトリンの効果が速やかに消失した。これらの結果から腹部の屈曲運動は運動ニューロンの性質が異なる複数の筋肉が異なるタイミングで収縮する複雑な血液循環用ポンプとして働き、運動神経末端および神経分泌細胞から放出される神経ペプチドがそのポンプ運動を巧妙に調節していると考えられる。
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