研究概要 |
北海道2カ所、東北地方3カ所、関東地方6カ所、中部地方3カ所、九州地方3カ所の強酸性温泉を主とする水域からPinnulariaを採集し単離培養し計21クローンを得た。解析の結果,これらの個体群は,P.acidojaponica, P.valdetolerans,およびP.sp.の3つのクレードに分けられた。この系統関係は,形態的特徴および生育地の別により支持されるものであった。これらのDNA塩基配列を18SrDNA、rbclおよびITS領域において調べ、クローン間の類似性を比較した。最初に登別温泉から採集したP.acidojaponica3クローン間でDNA塩基配列間の相違を調べたところ、調査したどの領域においても相違は全く見られなかった。次に他所産のクローン問で比較をおこなった結果、P.acidojaponicaと同定される14個体群は単系統群の中で緊密な系統関係にあることが示された。これらの個体群間で見られるわずかな形態的差異は,地理的隔離により生じた多様性の表れと考えられた。P.negoroiおよびP.paralange-bertalotiiは,恐山の強酸性水域から報告された種である。これら両種と同地から単離した、P.acidojaponicaの塩基配列を比較した結果,3つのDNA領域で最大1塩基の違いしか見られなかった。また,SEM観察から,前2種が、P.acidojaponicaに特有のshort segmental bandを持つことも明らかになった。さらに、各地点から得た個体群で200以上の殻を用い、数量的形質による分析のための計測を開始した。大涌谷産の、P.acidojaponicaを大量培養し、殻中に含有される物質の抽出を試みた。本種は粘質多糖を細胞外に分泌するため、電気泳動の結果があまり芳しくなかったが、方法の改善により明瞭なバンドを得る見通しが立った。
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