本研究では、国内マングローブ林における担子菌類の種多様性を解明するとともに、当該菌群が果たす生態的機能を明らかにするために、各々の種の生理生態的性質について調査した。この目的を達成するために、沖縄県(沖縄島、石垣島、西表島)および鹿児島県(奄美大島)のマングローブ林において、担子菌類子実体の発生調査を行うとともに、試料収集が可能なマングローブ林において子実体の収集を行い、90点の子実体と分離菌として34菌株を収集した。収集した子実体について、実体顕微鏡および微分干渉顕微鏡を用いて分類学的同定を行った結果、Asterostroma属の新種を含む担子菌類30属47種を同定した。種構成について解析した結果、日本国内マングローブ林の担子菌類相は背着性子実体を形成するコウヤクタケ類が全種数の71%を占めること、またAuricularia Polytricha、 Heterochaete delicata、 Hyphodontiaovispora、 Phlebia acanthocystisおよびTremellochaete japonicaは国内のマングローブ林においては普通種であることが明らかとなった。さらに、マングローブ基質材から得られた分離菌株についてrDNA解析を行った結果、少なくとも上記の47種とは種レベルで異なる少なくとも7種の分類群が認められた。このことは、子実体に加え、腐朽材を用いたDNA解析がより精度の高い多様性解析を行う上で有用であることを示唆する。また、本研究において認められたほとんどの種は27-30℃の比較的高温域に成育適温を示した。一方、耐塩性は種間(菌株間)で著しく差異が認められたが、満潮時の潮位とほぼ同位の低い部位に子実体形成を形成するHaloaleurodiscus mangrovei、 Phellinus mangrovicusおよびXylobolus sp.は、海水の塩分濃度(32-35‰)に比べ、高塩濃度(68‰)においても菌糸体成育が認められた。
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