本年度は計画に従い、おもにエラブウミヘビ(L. semifasciata)を対象に、琉球列島内でこれまでに採集されたサンプルに、今年度新たに採集されたサンプルを加え、分子生物学的手法による解析を進めた。そして列島内における、遺伝子流動や遺伝地理学的変異の検出と、観察された現象を引き起こした要因の検討を試みた。まずエラブウミヘビについて、琉球列島のほぼ全域に散らばる7つの繁殖場所やその周辺で捕獲された13標本を対象に、ミトコンドリアDNAのチトクローb領域における1114塩基対分の配列を決定した。得られた配列データをもとに近隣結合法、最節約法、最尤法によって繁殖集団間での遺伝的な関係を求めた。その結果、全体で5つのハプロタイプが得られたが、全塩基配列中、塩基置換が見られた箇所は8サイトのみ(塩基置換率は最大でも、わずかに0.7%)であった。ただしこれらのハプロタイプは小宝島、与論島、南琉球(宮古島、池間島、多良間島、石垣島、西表島で代表)の3地域間で共通しておらず、したがってこれらの地域間で、少なくとも雌の移動がないことが示唆された。このことはそれぞれの場所の繁殖集団の保全、存続を考える上で重要である.なお石垣島で得られたハプロタイプのうちひとつは、琉球列島に見られた他のハプロタイプ全体から比較的大きく離れており、他所(列島外)との間での地理的隔離によって分化したものが外部から二次的に侵入した可能性が示唆された。なお本研究に関連した調査において発見された他の爬虫類についても、本研究の主題となる個体群間の遺伝的変異やそれにもとづく個体群分類、系統地理の議論に関連づけられるものについては同様の手法で検討を加え、論文化を試みている。
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