研究概要 |
東アジア産ハリガネキノリ属(ウメノキゴケ科)地衣類の実体を明らかにするため,中国雲南省で現地調査を行うと共に,これまでに収集した標本について,主として形態(内部形態を含む)的形質に着目して分類学的検討を行った. 平成20年度は特に,特定の器官・組織について詳細な観察を行い,属内種間の比較と,近縁属との比較を行った.まず,(1)子器(apothecium)(=子嚢果,ascocarp)については,本属内での詳細な観察はごく限られていたが,果殻・Hypotheciurum・子器皮層が属内で多様であり,分類形質として有効であることを初めて明らかにした.また,この属内の多様さは,本属の属するウメノキゴケ科内においてはこれまで知られていない現象である.(2)粉子器(pycnidium)の形態については,本属では十分な観察がなされたことが無かったが,今回初めて詳細な報告を行った.粉子器と粉子の形態は,本属内でとても安定しており,種を区別する形質としては利用できないこと,また,近縁属とも区別は難しいことを明らかにした.ただし,ミヤマクグラ(ミヤマクグラ属)では,多少とも異なった.(3)地衣体の内部構造については,特に皮層に注目し,予備研究により縦断切片,横断切片,接線面の切片について比較し,特に横断切片で見る形態が分類形質として有効であることを明らかにした.(このうち,(1)(2)については論文として発表,(3)については準備中) 雲南省周辺に産する本属から,新種を発見し,記載の準備を行っている.また,雲南省産本属と比較することにより,日本産本属のうちこれまで混乱していた種群について分類学的に明らかにした(論文準備中).これにより,日本産本属の概要はほぼ解明できた.
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